連載(予定)SS「ニコ技の先輩が本気を出したようです(仮)」
「おう、来たな。まあ上がれよ」
先輩から面白い物ができて、ニコニコに上げる前にお前にこっそり見せてやるから来いとメールを受け取った僕は、初めて先輩の下宿にお邪魔させてもらった。先輩がニコ技では名の通った技術屋と聞いてはいたが、野尻抱介先生と先輩が一緒に写っている写真から、これまでNT(ニコニコ技術部の展示会)に出したと思われるLED照明や、モデルガンにカメラを仕込んで、PSPをモニターにして画像を見るガンカメラ、タッチパネルに触ると音楽が演奏できるキーボード等に僕は思わず目を瞠っていた。先輩は半田ごてにホースをつないで、そこに水を通して暖めてお湯にしてコーヒー豆に注いでいく手製のコーヒーメーカーでコーヒーをたてる用意をしながら話し始める。
「お前、この間携帯機種変して3Dモニター付きのスマホに変えたってな?」
「ええ、そうですけど」
「それに合わせてな。今度俺は面白いアプリを作ってみたんだ。ほら、これだよ」
しかし先輩が差し出したのは、QRコードが印刷されているだけのコンパクトフラッシュほどの紙片一枚だけ。これのどこがアプリなのかと首を傾げる僕に、その先を話したくてたまらなそうな先輩は続けて言う。
「この部屋にある物に比べてショボいなって言いたそうな顔だな。まあこのコードをカメラで撮ってみな、騙されたと思ってよ」
僕はポケットから新しいスマホを出して、紙片を撮ってみた。
『アプリケーションを読み込んでいます。しばらくお待ちください』
このメッセージがモニターに出てから数秒待って、さて出てきたのは……
「初めまして、伊野佑真様。初音ミクです」
スマホのモニターに立つようにして、身長12cm程の初音ミクが現れた。ピョコンとお辞儀をして、ニコニコして僕を見つめている。
「画像を立体投影できるスマホやタブレットパソコンがあれば、こんなふうにフィギュアめいた物を作れそうだと俺はかねがね思ってたんだ。なに、大した手間じゃない。3Dプリンターでの出力に使うようなデータを作るのとそんなに手間隙は変わりゃしないからね。さらに差分プログラムを追加すれば歌って踊らせることもできるわけさ、こんなふうにね」
先輩は自分のタブレットパソコンを起動させて、僕のよりスケールの大きい初音ミクを投影させてみせた。チョンチョンと先輩がモニターを触ると、それは音楽に合わせて歌って踊りだしたのだった。
「それでな、図に乗ってもうちょっといたずらもしてみたんだよ。そのミクの頭を指先で撫でてみ?」
僕はそうしてみた。
「えへへ、嬉しい……佑真様、ありがとうございます」
ミクがポッと赤く頬っぺたを染めて、嬉しそうに笑い出した。
「随分かわいいミクじゃないか」
僕が思わず言うと、ミクは答えた。
「かわいい? ご主人様、恥ずかしいですよぅ……でも嬉しいです」
僕は調子に乗って、ミクのスカートをめくってみた。縞パンがあらわになると同時に、
「きゃっ! 何するんですか、やめてください! 佑真様のエッチ!」
真っ赤になって膨れるミク。そのままくるりと身を翻してそっぽを向いた。
「ごめん、いたずらした俺が悪かったよ。許してミク」
「……」
暫しの沈黙。そしてゆっくり顔だけこっちに向けてミクは言った。
「もう、佑真様がそう言うなら許してあげます。もうしないでくださいね」
そうしてミクは僕の方に向き直り、先輩は更にニヤニヤした顔で言った。
「どうだ、面白いもんだろう。そもそもこれはTwitterのbotをヒントにして作ったプログラムでもあるんだ。うん、人の言葉やスキンシップに反応してしゃべったり感情を変化させたりする機能を盛り込んだ訳さ。作り方もbotみたいなもんでね、必要なデータをサーバーに置いて、QRコードを撮ることでそのサーバーにアクセスしてミクを映し出せるんだ」
「これって……フィギュアみたいですね。確か先輩も一時フィギュアにはまってたと思いますけど……」
先輩はフィギュアの製作代行と魔改造を小遣い稼ぎにやっているとは聞いていた。実際それらがズラリと並べられた棚もある。先輩は得たりとばかりに口を開いた。
(続く)
先輩から面白い物ができて、ニコニコに上げる前にお前にこっそり見せてやるから来いとメールを受け取った僕は、初めて先輩の下宿にお邪魔させてもらった。先輩がニコ技では名の通った技術屋と聞いてはいたが、野尻抱介先生と先輩が一緒に写っている写真から、これまでNT(ニコニコ技術部の展示会)に出したと思われるLED照明や、モデルガンにカメラを仕込んで、PSPをモニターにして画像を見るガンカメラ、タッチパネルに触ると音楽が演奏できるキーボード等に僕は思わず目を瞠っていた。先輩は半田ごてにホースをつないで、そこに水を通して暖めてお湯にしてコーヒー豆に注いでいく手製のコーヒーメーカーでコーヒーをたてる用意をしながら話し始める。
「お前、この間携帯機種変して3Dモニター付きのスマホに変えたってな?」
「ええ、そうですけど」
「それに合わせてな。今度俺は面白いアプリを作ってみたんだ。ほら、これだよ」
しかし先輩が差し出したのは、QRコードが印刷されているだけのコンパクトフラッシュほどの紙片一枚だけ。これのどこがアプリなのかと首を傾げる僕に、その先を話したくてたまらなそうな先輩は続けて言う。
「この部屋にある物に比べてショボいなって言いたそうな顔だな。まあこのコードをカメラで撮ってみな、騙されたと思ってよ」
僕はポケットから新しいスマホを出して、紙片を撮ってみた。
『アプリケーションを読み込んでいます。しばらくお待ちください』
このメッセージがモニターに出てから数秒待って、さて出てきたのは……
「初めまして、伊野佑真様。初音ミクです」
スマホのモニターに立つようにして、身長12cm程の初音ミクが現れた。ピョコンとお辞儀をして、ニコニコして僕を見つめている。
「画像を立体投影できるスマホやタブレットパソコンがあれば、こんなふうにフィギュアめいた物を作れそうだと俺はかねがね思ってたんだ。なに、大した手間じゃない。3Dプリンターでの出力に使うようなデータを作るのとそんなに手間隙は変わりゃしないからね。さらに差分プログラムを追加すれば歌って踊らせることもできるわけさ、こんなふうにね」
先輩は自分のタブレットパソコンを起動させて、僕のよりスケールの大きい初音ミクを投影させてみせた。チョンチョンと先輩がモニターを触ると、それは音楽に合わせて歌って踊りだしたのだった。
「それでな、図に乗ってもうちょっといたずらもしてみたんだよ。そのミクの頭を指先で撫でてみ?」
僕はそうしてみた。
「えへへ、嬉しい……佑真様、ありがとうございます」
ミクがポッと赤く頬っぺたを染めて、嬉しそうに笑い出した。
「随分かわいいミクじゃないか」
僕が思わず言うと、ミクは答えた。
「かわいい? ご主人様、恥ずかしいですよぅ……でも嬉しいです」
僕は調子に乗って、ミクのスカートをめくってみた。縞パンがあらわになると同時に、
「きゃっ! 何するんですか、やめてください! 佑真様のエッチ!」
真っ赤になって膨れるミク。そのままくるりと身を翻してそっぽを向いた。
「ごめん、いたずらした俺が悪かったよ。許してミク」
「……」
暫しの沈黙。そしてゆっくり顔だけこっちに向けてミクは言った。
「もう、佑真様がそう言うなら許してあげます。もうしないでくださいね」
そうしてミクは僕の方に向き直り、先輩は更にニヤニヤした顔で言った。
「どうだ、面白いもんだろう。そもそもこれはTwitterのbotをヒントにして作ったプログラムでもあるんだ。うん、人の言葉やスキンシップに反応してしゃべったり感情を変化させたりする機能を盛り込んだ訳さ。作り方もbotみたいなもんでね、必要なデータをサーバーに置いて、QRコードを撮ることでそのサーバーにアクセスしてミクを映し出せるんだ」
「これって……フィギュアみたいですね。確か先輩も一時フィギュアにはまってたと思いますけど……」
先輩はフィギュアの製作代行と魔改造を小遣い稼ぎにやっているとは聞いていた。実際それらがズラリと並べられた棚もある。先輩は得たりとばかりに口を開いた。
(続く)